「あそこのプージャ(礼拝)で打楽器を演奏してる人の、ビートの安定感すごいな」と思って、近くまで聞きにきてみた。そりゃ安定してるはずだ、と思った。
「昨日交換してくれたバスタオルがなんだかゴワゴワすぎて、使うと皮膚が痛いから交換してもらえないでしょうか」とゲストハウスの管理人に頼んだら「あ、ごめんごめん。それバスタオルじゃなかったわ」と言って持って行った。バスタオルじゃないなら何だったのか、という質問には返事をくれなかった。
ゲストハウスの新規宿泊客の重そうなスーツケースを、頭の上へ器用に乗せて颯爽と運ぶ従業員を見て「熟練した所作って、やっぱり美しいものだな」と思っていた。 階段を上りきったところで彼が「ムリムリムリ、首折れちゃう! 助けて日本人の兄貴!」と僕を呼ぶのを聞いて、さっきの感慨を撤回した。
今年のレッスンは今日が最後になることを先生に伝えたら、 「いいか、お前は20年以上タブラを叩いているが、どのぐらいの時間を費やしたかに価値があるわけではない。いい演奏をしなければ意味はないのだ」という含蓄のある話をしてくれた。 昨日買ってきたパンの代金ください、と言い出せなくなった。
レッスンの後に先生から声をかけられた。 「以前、音を大きくするために肉や卵を積極的に摂取するよう伝えたのを覚えてるか」 「はい、いつも心がけるようにしてます」 「あの話な、忘れていいぞ。最近の生徒の中で一番しっかりした音を出すやつが、生まれた時からのベジタリアンなんだ」 と言われた。
先生からメールがきた。「パン買ってこい」と書いてある。
The Green View Club、というレストランを見つけたので、「グリーン・ビューっていうぐらいだから店内に観葉植物がいっぱいあったり、窓の外に素敵な庭園が広がってたりするのかな」と思いながら入ってみた。 照明がやたらと緑なだけだ。
趣味でタブラをやっている友達の家に遊びにきた。「おー、入りなよ。今ちょっと計算をしていたところなんだ」と言う彼の計算のレベルがちょっとどころの騒ぎではなくて、インドやっぱりすごいなと思った。
近所のバーでグリンピースを食べていたら、隣の席のベンガル人男性が急にシクシクと泣き始めた。ウィスキーグラスを握りしめながら涙を流す彼に、連れのおじさんが「泣くなら飲むな!飲むなら泣くな!」と叱咤しているのを見て、「乗るなら飲むな、飲むなら乗るな」という日本の交通標語を思い出した。
フランス人の兄弟弟子から「夕飯を作ったから食べに来ないか」と誘われた。いい加減カレーにも飽きてきたしフランス料理とかすごく嬉しいな、と思いながら一応メニューを聞いてみた。 「今日は卵カレーと豆カレーだ」と言うので用事を思い出して断った。
深夜のコンサート会場でベンガル人のおじさんから「君は日本人か? 君に似た日本人を俺は知ってるぞ。えーと、なんて名前だったっけ…。そうだ、キシン・シノヤマ!」と言われたところだ。
スワパン・チョウドリー(有名なタブラ奏者)のライブの招待券あるけど要るか、とベンガル人の友達から聞かれたので「え、もちろん欲しい!」と答えたら、「すごくいい演奏だったよ」と言いながらチケットを渡してくれた。 先月開催されたライブの招待券を紛らわしくプレゼントするのはやめてほしい。
先生から「No today」とだけ書かれたメールが来たが、さっぱり意味がわからないので電話してみた。 「昨日クウェートから帰国したからレッスンでもしようかと思ったが、明日ケーララに行くし忙しいからやっぱり今日は無理、ということだ」と言われ、行間を読む修行も必要になってきたなと思った。
4月にある高松ライブの主催者の方に、会場の近くに安くて良さそうな宿泊先があるか聞いたらここを紹介してくれた。確かに安いし楽しそうだが、思っていたのと何か違う。
去年まで菜食専門の珍しいバーとして営業していた店が、今年行ったら普通に肉や魚を提供していたので、どうしたのか店長に聞いてみた。 「もし君がバーを経営することがあったら、肉料理も出すといいよ。やたらと酒を飲むようなベジタリアンは少ない、ということを俺は身をもって知った」と言われた。
先生のお使いでタブラ屋に来ている。まだ作業が終わっていないから30分だけ待ってくれ、と言うので「本当に30分でできる? 1時間とかかかるなら、いったん家に帰るけど」と聞いたら、「30分あれば100%大丈夫だ」と自信満々で答えてくれた。 いま、店に来てから3時間が経過したところだ。
先生からローマ字で「アリガト ゴダイエモンスタアア」という断末魔の叫びのようなメールが来たが、何かあったのだろうか。
東京では雪のため交通に影響が出ているそうですが、カルカッタも牛のため渋滞してます。
手のひび割れに効く薬とか何かありますか、と薬局で聞いた。 「それなら "ボロリン" というクリームだ。寝る前にたっぷりと擦り込んだら、2〜3日で治るだろう」 「へー。じゃあそれください」 「うちにはないから他を探してくれ」 あるものの中から薦めてほしい。
知らないおじさんから道で話しかけられた。 「私は、君が以前住んでた下宿の大家と古くからの知り合いなんだ。娘のミトゥもまだ小さかった頃から知ってる」 「それはどうも」 「だから、君の使ってるiPhoneを私にくれないか」 久しぶりに理解を超えたオファーを受けて、なんだか懐かしかったが断った。
タブラ界の巨匠、オニンド・チャタルジー先生の最近の趣味は電気蚊取りラケットだそうです。
オニンド・チャタルジー先生の、泣く子も黙る超速タブラは今日も絶好調です。
ザキール・フセイン先生から車の中で 「君はパランとガット(タブラの曲の種類)の明確な違いについて知っているかい」 「いや知らないです」 「私も以前は悩んだものだ。そして考えた末にわかったんだ」 「はい」 「そんなこと考えるより練習でもしたほうがいいってことが」 という貴重な指導を受けた。
バラックプールという街のコンサートホールでトイレに行きたくなったのだけれど、会場を二周しても男性用トイレがぜんぜん見つからず、焦燥感の中でようやく発見したそれを見て、固定観念って危険だなと思った。
ちょっとした仕事でカルカッタの音楽スタジオに来ている。エンジニアの人から「なぜか片方のチャンネルからしかヘッドホンの音が出ないんだけど、これを二個使うことでなんとか録音してくれないかな」と言われた。無理だよ。