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「ドーモ。サツバツナイトです」フジキド・ケンジは力強くアイサツした。満身創痍の赤黒の死神は双眸の炎を散らし、決断的焦点を結んだ。裂けたメンポが軋んだ。見開かれた目からは血涙が流れ、ニンジャに対する苛烈な憤怒が渦を巻いた。「ドーモ。サツバツナイト=サン。ニンジャスレイヤーです」
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一方ニンジャスレイヤーは燃える超自然炎熱車輪じみて回転を続け、空中に留まっている。四方八方に凄まじい邪気が乱れ飛び、不定形のオバケめいたアトモスフィアが闇に滲んだ。(((フジキド!オヌシ如きが自身の至らぬワザに頼ってリアルニンジャたらんとするは完全に片腹痛し!わからせてくれる!))) 5
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ナラクの力がマスラダの自我に混ざり込み、激しく循環して、崩壊寸前のところで踏みとどまらせている。そしてそれゆえ、自我の主導権はナラクにある。フジキドは己がかつてナラクに意志を任せた幾度もの苦い瞬間に思いを馳せた。だがその時、ナラクはフジキドを曲がりなりにも滅びから遠ざけたのだ。11
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(ナラク……!)だが、ナラクが全てを握れば、最後に待つのは破滅だ。マスラダを害し、ナラク自身をすら害してしまうような悲惨な暴走と破壊である。ここへ至り、フジキドには道が見えていた。ゲンドーソー=センセイの背中が。「イヤーッ!」赤黒の車輪は殺戮の力を解き放った! 12
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四方八方に撒き散らされる赤黒の炎!その一つ一つが嘆きのスリケンと化し、乱れ飛び、サツバツナイトに襲いかかった!ナラク奥義!ツヨイ・ヘルタツマキ!「イイイイイ……イヤーッ!」サツバツナイトはスリケンを投げ返した!撃ち落とす!足りぬ!連続側転!駆ける!「イヤーッ!」13
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おお、見よ!いかなるジゴクの手練れサーカス団であれば、そのような悪夢空中ブランコめいた演目を構成できようものか!?赤黒と黒橙、二つの影は互いに空中で弧を描いたのち、再び吸い寄せられるように衝突した!「イヤーッ!」「イヤーッ!」空中カラテ短打ワン・インチ応酬!ナムサン! 19
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「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
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短打戦を制したのはニンジャスレイヤーである!しかしサツバツナイトは、それでも戦えていると言ってよかった。ニンジャスレイヤーの凄まじきカラテに、サツバツナイトは食らいついていた。かつて己が長くイクサを共にしてきたナラク・ニンジャのワザマエがヒントだった……! 23
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「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーは上半身を反らして躱し、そのまま手を床について蹴り返す!メイアルーアジコンパッソだ!一方サツバツナイトは逆さ蹴りから流れるようにやはり手を床につき、蹴り返した!メイアルーアジコンパッソ返しだ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」25
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「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「「イイイヤアアアーッ!」」
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「スウーッ……」サツバツナイトは肘をついて身体を持ち上げ、起き上がろうとする。その背中が震える。「……ハアーッ……」「ブザマ。オヌシはこの短き切り結びの間に儂に二度敗れた。即ち二百度敗れたに等しい」ニンジャスレイヤーは言い放ち、片目を渦巻かせた。足跡が燃え上がった。 28
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「スウーッ……ハアーッ」「忌々しきチャドー呼吸はオヌシのブザマを長引かせるのみよ。二百度オヌシが儂に縋りつこうとも、儂はオヌシを二万度叩き潰す」「……スウーッ……ハアーッ……!」サツバツナイトは呼吸を深めた。空気が彼の周囲で渦巻いた。彼は立ち上がった。ナラクは前傾した。 29
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サツバツナイトはニンジャスレイヤーを睨んだ。流れるように、彼はジュー・ジツを構えていた。不用意に手を出しておれば、ニンジャスレイヤーは反撃を受けただろう。ニンジャスレイヤーは前傾姿勢に再びカラテを漲らせた。サツバツナイトは言った。「回数など問題ではない。オヌシは私を倒せぬ」 30
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マスラダはただ頷いた。フジキドがなにを為そうとしているかは知らず、ただ、決断的意志の向かうところを理解した。(やってくれ)……ナラクの荒れ狂う炎はたちまちそれを遮り、無尽蔵の破壊衝動と憎悪を上塗りした。(((マスラダ。寝ておれ。此奴を滅ぼし、全ニンジャを!カツ・ワンソーを!))) 32
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アトモスフィアが張り詰めた。目撃者はブッダただ一人。「天には忌まわしきキンカク。地にギンカクの光。オヒガンが近い。かくなるうえは儂は自由。小僧は儂を活かす臓器として在ればよい」「……否。オヌシはマスラダ=サンと共にある。それがオヌシをオヌシたらしめるものだ」 33
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「ほざくがいい!かつてありし儂の残滓に過ぎぬニンジャよ!」ニンジャスレイヤーの背が高く燃え上がり、ジグラットの空虚な闇を照らした。「もはやカラテで抗うすべもなく、言を弄するばかりか!」「ならば確かめてみるがいい」サツバツナイトは手招きした。「来い。ニンジャスレイヤー=サン」 34
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「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは地を蹴った。サツバツナイトはコンマ01秒に己の呼吸を圧縮し、強く吸った。彼はチャドーとなった。そしてジュー・ジツを捨て、両手を広げた。まるで柔らかいトーフを貫くが如く、ニンジャスレイヤーは容易くサツバツナイトの胸を貫き、心臓を摘出していた。 35
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「イエ!」サツバツナイトの赤い目が光った。ニンジャスレイヤーは訝しんだ。胸を貫き、背中側から腕を飛び出させ、脈打つ心臓を握りながら。サツバツナイトの肉体に残存するチャドーが、筋肉をなお駆動させ、赤黒い腕を咥え込み、動きを封じた。サツバツナイトは口を動かした。(モト!)36
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サツバツナイトの両腕が動いた。そしてニンジャスレイヤーの両側頭を、両掌で、挟み込むように打った。そしてそのまま押さえ込んだ。両手と胸の致命傷、その三点を通し、サツバツナイトのチャドーはニンジャスレイヤーの体内に吸い込まれてゆく!「AAAARGH!」ニンジャスレイヤーが咆哮する! 37
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(((おのれ……フジキド!)))ナラクの叫びが木霊する世界で、マスラダは焦点を取り戻した。そこはピザタキだ。窓という窓が割れ、赤黒く燃える鎖が店の中に入り込んできている。鎖はマスラダの両腕に絡みついている。鎖は店の外、ネオサイタマ各所のアブストラクト・オリガミから伸びて来たものだ。 38
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「……」マスラダは腕を動かした。それまで彼の身体を四方八方に引き裂かんとしていた力は、今、ある種の調和を取り戻していた。『ガガピー……オイ!通じた!』カウンターのUNIXモニタにノイズが走り、タキが映し出された。『いつまでも応答がねえから。何かヤバイ事になってるんじゃねえのか!?』39
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「なってるが、どうにかする」マスラダは答えた。視線を動かすと、カウンターの上に赤黒のアブストラクトな影がアグラしていた。燃える影はマスラダを睨んだ。マスラダは睨み返した。「おれが臓器とか言っていたな」燃える影は言葉にならぬ呪詛を吐く。店を満たすアトモスフィア。チャドーの力か。 40
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今なら、鎖を御する事ができる。マスラダは直感した。部屋の中で絡まる鎖を、彼は内なる炎で溶接し、天井に突き刺した。クリスマス飾りめいて……否……そう喩えるにはあまりにサツバツとした鎖が店の中で静かに熱を持つ。外を見る。手を離しても、鎖の引力は保たれている。 41
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『ニンジャスレイヤー=サン。サツバツナイト=サンは……』幼いナンシー・リンがマスラダの脚を掴み、見上げた。マスラダはナンシー・リンの頭に手を置いた。そして店のドアに向かった。ドアを開く。01の風とともに、現世の光景が飛び込んでくる……。……010001……。……01010……「イヤーッ!」 42
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ニンジャスレイヤーは掴んだ心臓ごと、自身の腕を引き戻した!彼の手は今、サツバツナイトの胴体、胸の中に位置していた。彼は深く呼吸した。「スウーッ……!」「……!」サツバツナイトの目の焦点が揺れ、ニンジャスレイヤーを凝視した。ニンジャスレイヤーは腕を引き抜いた!「イヤーッ!」 43