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翌日、男の子からそんなことを聞かされた店主は、聞いたそばから右から左へ流れていこうとする言葉をなんとか噛み砕いた。どれもこれも現実味がなくて、耳慣れないのだ。
「て、てっきりお化けかなんかだと」
「あそこまでなっちゃったら見分けつかないですよね」
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◇
つまり、夜遅くにやって来る人間ではない黒いなにかは神様なのだと男の子は言う。
「神様にも色々いるけど、町の中にいる神様は基本的に人間が好きです。大好きだから側にいるんです。でも神様って、人間に忘れられちゃうとどんどん自分の姿がわからなくなっちゃうっていうか」
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「あそこまでなってなくても分からない気がするよ。ていうか、君は分かるんだね……」
「そりゃあ、神様ですし」
「そう……」
店主は察した。彼の言葉を理解するのは無理だ。そもそも話をしている土台が違う。
「それで、あの神様?を、うちに来させなくする方法とかって」
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店主がそう切り出すと、男の子はぎょっとしたように飛び上がった。
「なんてこと言うんですか」
「え、だ、ダメ?」
「神様を門前払いするつもりですか?」
そう聞くと確かにものすごく無礼で酷いことのように思う。しかし見た目はあれだ。営業に多大な弊害が出ているし。
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「じゃあまさか君は、このままあの神様とかいう化け物を歓迎し続けるって!?」
「一度招いてしまったのをこちらの都合で一方的にお断りするのはかなりやばいと思いますけど」
「招いたのは君じゃないのかい!?」
「違いますよ」
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冷静な男の子の言葉に、店主は記憶を振り返った。
初めてあの人間ではないものがやって来た日───。
「バイトの子が、いらっしゃいませ、って」
「はい、招いてますね」
姿も見ずに声をかけ、振り向いたバイトの女子大生は腰を抜かしたのだ。
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「招かれたのに誰にも歓待してもらえない、食事も酒も出してもらえなかったって落ち込んでたみたいですよ。忙しかったからダメだったんだろうって日を改めたけど、やっぱり誰も側に来てくれないって」
「それ聞くと罪悪感がすごいけどあれだよ!?どうやって歓待したらいいんだい!」
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しかし彼の話を聞く限りでは、悪いものではないようだ。だからと言って、はい大歓迎です!とはいくらなんでも難しいものがある。
「……あの神様は、もとからああいう姿だったの?」
店主の質問に、男の子は「うーん」と頬を掻いた。
「どうでしょうね」
「どうでしょうねって」
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ラスト近くのシフトに入ってくれるバイトは彼以外いない。
しかしそれでは定休日の他六日間をでずっぱりになってしまうし、予定があったときなどは大変なことになる。
そこで男の子は、自分のシフトを神様に伝えることにしたらしい。神様も、自分を快く歓待してくれるスタッフがいた方が嬉しいからか
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「俺も詳しいわけじゃないから」
「いや十分詳しい」
彼にからかわれているわけではないのなら、店主にとっては十分有識者だった。
◇
それからも夜になると、あの神様だという人間ではない黒いなにかはやって来た。
対応するのは男の子だけだ。他の誰にも出来やしないし、そもそも
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素直に言うことを聞いてくれているようになった。
男の子は相変わらず神様を客として扱う。恭しく、丁寧に。毎度毎度話し相手をするからか、態度は大分軟化して気安いものになっていたが。
そんなある日、急な予定が入り男の子が休むことになった。これに慌てたのは店主だ。神様が来てしまう。
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いつもの時間、神様はやって来た。
しかし出迎えたのがいつもの男の子ではなく店主だったので、どこか戸惑ったように体を揺らした。
「あ、あの、申し訳ありません!彼は今日休みになってしまいまして…!」
平身低頭謝り倒した。どうか許してほしい。わざとではないし、彼にだって自分の生活がある。
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どうか怒らずに穏便に帰ってくれと祈りながら謝罪を繰り返していると、残念そうな声がぽつりと聞こえてきた。え、と顔を上げると、もうそこには神様の姿はない。
帰ってくれた。あっさりと。
店主はへなへなと座り込んだ。
「神様ありがとう……」
この場合の神様とは、あの客のことになるのだろうか。
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◇
翌日、しっかりと出勤してくれた男の子は店主から昨日のことを聞くと申し訳なさそうに首を竦めた。
「ああ……ほんとにすみません……」
「いやいや、急用は誰にでもあることだから仕方ないしさ……ただ、対応があれでよかったのか僕にもよく分からなくて」
なんとか今日機嫌を取ってくれと
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言外に頼むと、男の子は苦笑した。
「怒ってはいないと思うんですけどね」
そうして来店時間。
男の子は入り口の前で神様を出迎えた。丁寧に頭を下げて謝る男の子を、店主ははらはらしながら遠くから見守る。
「はい、ちょっと学校の用事で……急な予定の変更を伝えられないのは不便ですね。
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ご足労いただいたのに……え、あ、はい、体はなんとも。元気ですよ。あなたは?お腹空いてませんか?取り敢えず中へどうぞ」
どうやら危惧するようなことはなにも起こらなかったらしい。
盛大な安堵の溜め息をつく店主のもとへオーダーが届く。刺身八点盛り。肉じゃが。枝豆。
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厚焼き玉子。釜飯。今日は随分とがっつりだ。店主はすべてを忘れてしまおうと、調理に没頭した。
男の子もこの日は一緒に食事をしている。ぽつぽつと聞こえてくる声は男の子のものしか聞き取れないが、会話は穏やかだ。
そんな会話が、突然妙な展開を迎える。
「え、結婚?」
結婚?
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どんな会話の流れでそうなった。
まさか神様が結婚するのか。相手はどんな人(そもそも人なのか?)なのだろうか。こんな見た目の神様でも、結婚しようと思う相手がいるものなのか、なんて失礼極まりないことを思う。
続きを待っていると、男の子は俯いて黙り込んでいた。
(え?なにその反応?)
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「…………でも、俺」
男の子は言いにくそうに口をもごもごさせ、手に持っていた割り箸を置いた。
「急に、そんな、だって俺……」
(え?そんなにショック?)
家で食事を作ってくれる奥さんでも出来れば神様もこの店に来なくなるかもしれないし。店主は両手を上げてお祝いしたい気分なのだが。
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「お、俺、まだ学生ですよ……?」
(え?)
「結婚なんて考えたことないし、それに、あなたのこと、そんな目で見たこともなくって……」
(まさか?)
「それなのに、そんな、急に結婚してほしいなんて、困ります……」
(君かよ!!!!!!)
店主はひっくり返った。
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いけると思っていけなかったときの心の傷と言うのはとんでもなく深い。めちゃくちゃ痛い。頼むからせめて、せめて言葉には気を付けてくれ、想いを告げたことのある人間ならば誰もがそう願うことだろう。
「き、君!」
助け船を出さなくては。だって店主は店主なのだ。従業員をフォローできずに
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なにが店主か。
しかし店主が駆け付けるより早く、男の子は叫んだ。
「ま、まずは友達からお願いします!」
「前向きな返事だねぇ!?」
断られるかと不安そうにしていた神様も、パァァァと嬉しげに触手をわさわささせている。店主にも神様の心の機微がよく分かるようになってきた。
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いや待て!本当に待て!返答次第ではこの店はどうなってしまうんだ!慎重に!慎重に頼む!可能なら結婚してくれ!
下心満載で店主は飛び起きた。
あまりにも突然なプロポーズをされたらしい男の子は、席を離れて後退りをしている。これはまずい。
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「えっと…おめでとう?」
「まだ付き合ってもいないです」
彼はこうした色事には疎いようだ。食い気味に言い返してきても、その顔は耳まで真っ赤だった。
二人がその後どうなったか。
男の子が照れ臭そうにバイトを辞めると言ってきて、あの神様も来なくなったのだからつまりそういうことだろう。
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1000円カット的なところで大失敗してしまい途方に暮れてた男の子が、通りすがり男に「俺がどうにかしてあげる、ついてきて」ってめちゃくちゃおしゃれで敷居の高そうな美容室に連れていかれてまじでどうにかしてくれたしついでに恋にも落とされるBL。この男、その世界ではすごく有名なカリスマ美容師。