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塾では、学習障害の子や不登校の子、不良の子などがたくさん来た。しかしどの子に接するにも、最も大切なのはその子の「素」を見ること。勉強ができないとか、学校にいけないとか、シンナーやタバコを吸ってるとか、バイクを盗んで乗り回すとか、すべて外面的なこと。
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その外面的なことで大人たちに評価され、断罪され、ダメな子の烙印を押されていた。誰一人、「素」を見てくれる大人がいない、孤独。けれどどの子も、「素」と「素」で付き合うと、子どもによって時間のかかり方は違うが、心を開いてくれた。
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成功者は、外面的な飾りで周囲から評価される。称賛される。か弱く傷つきやすい、柔らかな心を、外側の外骨格で守り、なんとか立てようとする。まるでカブトムシ。けれど、やはり中身は柔らかく、傷つきやすい。本当はそんな殻を脱ぎたいという衝動が隠れている。
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「素」の自分を見、受け入れてくれる人に、たった一人でも出会えたら。私たちは救われる。ありがとう。そう心から言いたくなる。私が尊敬する人物の一人は、お向かいのおばあちゃん。そして高知のご夫婦。そんな人たちに、私はなりたい。
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世の中に全然役に立たない、趣味としか思えない研究が、とてつもなく人類に貢献する技術体系を育てることになった事例を紹介。
それは、ミミイカという光るイカの研究。これがやがて、アレルギーや心の病にも深く関係する、腸内細菌などの研究にも波及していった。
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「インフルエンザはもっと大量の感染者と死亡者を出したことがあるのに医療崩壊は起きなかった。新型コロナはそこまで死んでない。騒ぎ過ぎ」との論説は、医学研究者からも出てたりする。一見、合理的。しかし医療現場各地の悲痛な訴えと、その論説は全く一致しない。なぜか?
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どうやら、「重症化患者の集中治療室滞在期間」がとても長いのが原因のようだ。新型コロナで重症化すると、集中治療室の治療は一ヶ月にも及ぶほど長引くらしい。他方、インフルは快方に向かえば数日で集中治療室から出られるようだ。新型コロナは、こじれると長引く。
covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/1121
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しかし、医療現場もこのあたりの事情を言語化できていないため、「インフルとなにが違うねん」という怪訝な声を、うまく打破できていない。「新型コロナはインフルと違い、集中治療室の資源を長期間食い尽くしてしまう」ということを数値的に示せば、いまだに消えない楽観論の一つを消せると思う。
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臨床の現場を知らない医学研究者が、数値だけを見て楽観論を振りまいている気がする。なるほど、「集中治療室の滞在期間の違い」は、まだ統計データが出ておらず、明確に論ずることは難しい。しかしそれにしても、臨床の現場がこれだけ悲痛な声を出してるのに、それを聞き流すのは解せない。
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こういう場合、「現場が感じてることを端的に表現する数字がまだ明らかにされてないから」と仮説を立てるのが妥当。既存の数字だけで論を立て、現場からの声を否定するのは、既存の科学で新理論の登場を否定するのに似る。現場の声が強いときは、安易に否定してはいけない。
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もしかしたら、「医療崩壊しても構わない、経済の再建こそが最優先」と考えている人がいるかもしれない。経済最優先の立場から見ても、医療崩壊は経済システムの破綻につながる恐れがあると考える冷静さが必要。
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私たちは、病気になっても病院にさえ行けば治ると安心するからこそ経済活動を維持できる。もし大切な身内が十分な治療を受けられないとなれば、家族で看護する必要が出てくる。もうそれで経済活動はできなくなる。治る者も治らなければ、その人は経済活動ができなくなる。
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医療は、経済システムに欠かせないものの一つだ。人体にたとえるなら、医療崩壊しながら経済活動をすることは、免疫や腎臓を欠いて仕事しろと行ってるようなもの。たちまち活動できなくなる。医療崩壊は経済システムの危機でもある。
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旅行業や飲食業、航空業も重要な産業だから救出しなければならない。しかし医療崩壊させては、それらの産業も成り立たなくなる事を忘れてはいけないと思う。
にしても、GoToは筋の悪い対策。既存のやり方を踏襲することでしか利益が得られないのでは、どうしても感染が広まる。
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キャンペーンを利用すればするほど感染者が減らせるような補助の出し方を工夫する必要がある。キャンペーンのデザインが、利用者が出れば出るほど感染者が増えるリスクを高める制度設計になってる。始めた当初は、夏になればコロナは消えるという淡い期待があったものの、もう違うのだから要変更。
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インフルで起きる肺炎は免疫が落ちることによる細菌性。ということは、抗生物質がそれなりに有効。
新型コロナはウイルスが直接肺炎を起こす。だから有効な治療法がない。この点も厄介な違い。
buzzfeed.com/jp/naokoiwanag…
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ワクチン接種が始まった国は色塗りされてる地図。
これを見ると、日本はもう先進国ではないな、と感じる。自国でワクチンを迅速に作る力を失っている。
先進国でワクチン接種が始まっていないのは日本だけ。
vdata.nikkei.com/newsgraphics/c…
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嫁さんがいまだに衝撃だった、というエピソード。
息子が赤ん坊のころ、嫁さんに世話を頼まれた。ミルクを飲ませ、ゲップさせ、寝転ばせておいた。すると、赤ん坊が泣き出した。
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必要項目のチェックを始めた。さっきミルクを飲ませたばかりだから腹は減っていない。ゲップもさせた。オムツは、濡れてない。熱は、ない。手先足先がポカポカ。あ、これ眠いんだな。眠りに陥る前のむずかりか。じゃあ泣き疲れて眠るまで放っておこう。
赤ん坊を視野におさめながら、本を読み続けた。
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すると、嫁さんが部屋に入ってきて「赤ちゃんが泣いてるのに何でほったらかすの!」私は必要なチェックをし、健康に問題なく、危険もないことを確認したうえで、「泣くのは肺を鍛えるというし、ほっとこうと判断した」と答えた。
嫁さんはこのことが、とても衝撃的だったという。
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嫁さんがのちに解説してくれたところによると、嫁さんは赤ん坊と一緒にいるとき、より快適に(more confortable)を目指すのだという。赤ちゃんが泣いたら抱き上げ、できるだけ気持ちよく眠りに就けるように、というように。起きていたら起きていたで、楽しませようと努力するのだという。
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ところが私は、「泣きたいことだってあるだろう、泣き疲れて眠った方が深く眠れて気持ちよかろう、大声で泣けば肺活量も鍛えられてなおよかろう」と考え、健康に問題がなく、危険がないことを確認する最低限のことをやったらほっとくやり方。これが嫁さんには衝撃。
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嫁さんが私に「赤ん坊の面倒を見てね」と言ったのは、「赤ん坊に最大限のサービスをしてね」というつもりだったという。他方、私は、「健康で危険がないなら、あとはお前も好きにしていいぞ」と、赤ん坊に最低限の安全性を確保するだけの世話。考え方が全然違っていた。
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二人でそのことを話し合い、互いに「面白い」となった。嫁さんは、「そうか、男の人、と一般化しちゃいけないかもしれないけれど、「より快適に」を子どもに対して目指さない世話って形をとるのか、そしてそうした形がこの世にあり得たのか」と衝撃を受けていた。
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他方、私は、「女性、って一般化したらいけないかもしれないけれど、赤ん坊のためにどこまでも最善を尽くそうとするなんて、すごいなあ。生きてりゃいい、じゃないんだ」と感心した。赤ん坊に対するとらえ方が全然違って興味深かった。