1
とうらぶホラー
ある日、部屋に鯰尾が飛び込んできた。
「主、主、聞いて下さい…ううっ、ぐすっ、とても悲しい事があったんです。
一兄に叱られた時よりも、俺の育てたヒヤシンスが枯れてしまったことよりも悲しい事なんです。
ポチが……俺の大切な大切な友だちのポチが死んでしまったんです。
2
とうらぶホラー
うちの初期刀、歌仙は買い物が苦手だ。
お使いを頼むと、一個か二個は違うものを持って帰ってくる。
醤油と酢やネギとニラを間違えたりする。
「歌仙!また違う物買ってきただろ!」
「僕はちゃんと買い物してきたよ」
「じゃあこの白玉粉は何だよ!塩買ってきてって言ったのに!」
3
とうらぶホラー
新人審神者の俺にとって、初めての政府からの監査官は則宗さんだった。
ギリギリで『優』の評定を貰い、本丸にやってきた則宗さんは、すぐ他の刀剣とも仲良くなったが、俺は正直、則宗さんが苦手だ。
4
とうらぶホラー
『三度の畑を見るな』
その言葉を思い出したのは、大掃除中に出てきた昔のアルバムを捲っていた時だった。
幼い頃から審神者をやっていた私に、初期刀の山姥切国広がそう言ったのだ。
写真には、現世の実家の近くにあった神社での夏祭りの様子が写ってる。
5
とうらぶホラー
俺がまだ審神者になったばかりの事だ。
俺はレア刀にとても憧れがあった。
その中でも、先輩の近侍として控えている静かな佇まいを見て「格好いい!うちにも欲しい!」と思ったのが、粟田口の平野藤四郎だ。
6
とうらぶホラー
審神者になってから数年、私の本丸も刀剣が増え、手狭になってきた。
リフォームも考えたけれど、担当から「丁度いい物件が空いてる」と勧められて、引っ越しする事にしたんだ。
引っ越しした先は、とても広くて綺麗な本丸だったから、皆とても喜んだ。
7
とうらぶホラー
俺の本丸の今剣は絵を描くのが大好きだ。
暇さえあればクレヨン片手に画用紙に色んな絵を描いている。
しかし、まあ、何と言うか…今剣は独特な感性を持っているので正直言って何を描いているのかパッと見ただけでは分からない。
8
とうらぶホラー
うちの桑名は、他の本丸の桑名と同じように農業をこよなく愛している。
私の本丸は畑当番を嫌がる刀剣が多かったが、桑名だけは違った。
畑当番でなくても畑に居たし、畑当番の時は朝から晩まで畑に居るので、私たちは桑名の事を「畑のヌシ」と呼んでいた。
9
とうらぶホラー
私の祖母が亡くなった。
祖母は自分が亡くなるのが分かっていたかのように、身の回りを全てきちんと整理して、誰にどの形見を渡すのかという遺言まで準備してあった。
そして、その遺言通りに、私の元にある一冊のノートが渡されたのだ。
見た目は普通のノートだ。
10
とうらぶホラー
それはどう見ても、光輝く白い犬であった。
夜、眠っていたら何だか眩しくて目が覚めたのだ。
明るい方を見ると、発光する大きな犬が座っていた。
『もし、そこの御方』
犬が。
犬が喋った。
「はい……何でしょうか」
俺は、そういう事もあるかと半分夢見心地で答える。
11
怪異に巻き込まれて、異界の物を食べたり覗いちゃいけない鏡を覗いたりと、全てのタブーを元気いっぱいに破っていく霊感0な五月雨と、お腹を痛めつつ五月雨の後始末をして怪異を倒していく霊感MAXな村雲のとうらぶホラーがここにあるって聞いたんですけど…
ここにあるんだろ?知ってんだぞ!出せ!
12
とうらぶホラー
「大将、何か昨日から様子が変だよ。何かあったの?」
信濃がそう声をかけてきて、俺は遂に観念した。
「……聞いても笑わないでくれよ?」
「笑わないよ」
「実は昨日怖い目に遭ったんだ」
「怖い目?」
13
とうらぶホラー
私の本丸にはかつて、全ての刀剣が揃っていた。
しかし、小竜景光は数年前のある日、戦場に出てそのまま二度と帰ってくる事はなかった。
私の采配ミスが原因だ。
一ヶ月後、悲しみにくれる私の元に、一通の手紙が届く。
『俺の主へ』
内容はなんてことの無い旅行記のような文章だ。
14
とうらぶホラー
治金丸は鼻が悪い。
万屋街を歩いていると、金物屋の前で立ち止まり「パンの香りがする」とうっとりした顔をするので、どんな嗅覚してるんだよと呆れた事もある。
ヨボヨボのお爺さんの近くを通った時なんか「いい香りがした…!フローラル!」とか言う。
湿布の匂いしかしないよ!
15
子供の頃…
まだ俺が高校生になったばかりの頃だよ。
審神者もやりつつ、俺は社会経験のつもりでコンビニでバイトもしてた。
いや、ちょっと見栄はったな…
社会経験というか、これぐらい俺でも余裕でできるだろうっていう甘い考えだった。
16
とうらぶホラー
私の本丸にも福島さんがやって来た。
と言っても、この福島さんは引き継がれた福島さんだ。
福島さんが元居た本丸の主が亡くなってしまい、縁あってうちの本丸に来た。
私の本丸の庭は自慢の庭だ。
ガーデニングが趣味の私が丹精込めて育てた色とりどりの花が見事に咲き誇っている。
17
とうらぶホラー
主がその油絵を怪しげな骨董市で買ってきたのは、五月も終わりの事だった。
「綺麗な絵だろ?一目で気に入ったんだよ」
それは、木々も草も真っ白な林の中を亜麻色の髪を揺らした女神たちが飛んでいる絵であった。
「天国があったらきっとこんな風景なんだろうなぁ」と主は言う。
18
とうらぶホラー
私の本丸は中古の本丸だ。
中古だが、リフォーム済みなので内装はとても綺麗である。
この本丸は刀剣たちの住まいとして、六畳一間の部屋が幾つも連なった長屋のような建物が建っていた。
プライバシーを守ることが出来る造りなので、刀剣たちはこの本丸を大層気に入っている。
19
誉を取った鶴丸が「ドーナツの穴の部分が食べたい」と言う鶴さにが書きたい。
とんちか?と思いながらちっちゃいサーターアンダギー山ほど揚げて「はい、穴の部分」って出したら目をキラキラさせて宝物を貰ったみたいにはしゃいで「これがドーナツの穴か!」って食べる。
20
とうらぶホラー
私には審神者の母と、一般人の父がいる。
母は本丸で暮らして、私と父は現世で暮らしていたが、母も父は仕事で忙しい事が多く私は幼い頃から寂しい思いをしていた。
一番嫌だったのは運動会だ。
私は勉強嫌いな子どもだったが、運動は得意中の得意。
かけっこは学年で一番だ。
21
葬儀の仕事をしてた時、家族の写真を入れたいけれど生きている人の写真を入れては駄目なんじゃないかと悩む遺族様に「大丈夫です!氷川きよしの写真なんか毎日棺に入ってますよ!」って言うと皆安心して写真を入れられた。
ありがとう氷川きよし。
22
連れていかれる、と嫌がる人もいらっしゃるので、そういった方の写真は無理には入れないでください!
23
とうらぶホラー
私がにっかり青江と一緒に、万屋街に行った時の事だ。
どうしても食べたかった限定エクレアを手に入れた帰り道。
路地を歩いていると、十歳ぐらいの女の子が駆け寄ってきた。
陶磁器のような肌に、夜のように美しい黒髪。
丸い、パッチリお目々。
お人形のようにとてもかわいらしい。
24
とうらぶホラー
俺の父は審神者だった。
というか、うちは先祖代々審神者をやっていた。
お祖父ちゃんも、そのまたお祖父ちゃんもだ。
俺は生まれた時から本丸で暮らしている。
父は俺が子供の頃にこう言った。
「うちの本丸には神様が全て揃っているけれど、決して全ては揃わない」