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イギリスでは言語学の衰退は目も当てられない状態だという。いわゆるLinguistics Warの結果、各大学で学派間の潰し合いとなり、全体として衰退の一途を辿ったらしい。ランカスター大学だけがそうした学派抗争を封じ込めることに成功し、言語学研究の一大センターとしての地位を守っている。
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拙著『愛国の構造』で論じたように、近代国家は〈聖性〉を独占する(と主張する)機関である。今日の儀式は、日本という国家の〈聖性〉の主張を非常にはっきり看取できる機会である。「平安絵巻」さながらの装い、などという生易しい話ではない。
asahi.com/articles/ASMBQ… #令和・即位
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人文学の意義や価値をいかに物語るか、というような小手先の策を弄するのではなく、人文学研究者が取り組むべき課題とは、現代の問題と何らかの形で切り結ぶことだろう。現代社会をどう理解するのか、これからの市民社会をどう運営してゆくべきなのか
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いわゆる「社会正義」の立場から歴史学や文学などの人文学研究への攻撃が進行中。先日ツイートしたがオックスフォード大学でも14世紀の神学者ウィクリフの文言が「不快」だとして問題視された。「社会正義」が絶対不可侵の聖性を帯びると疑似宗教的となり現代における異端迫害や魔女狩りとなる。 twitter.com/ogawa_kimiyo/s…
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英語圏で生活してちょうど30年。その経験から言えるのは、英語(おそらく他の欧州語も)でのコミュニケーションには演劇的素養が不可欠だということ。演劇は役割を演じること(role playing)であり、日常生活は即興で役割を演じることに他ならないから。学校でもspeech & dramaを学ぶ学生は少なくない。
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安倍元首相の国葬生中継をチラッと見たらBGMがベートーヴェン「エロイカ」の第二番じゃないか。暴君をナポレオンばりの「英雄」にしようというチャチな演出。だがベートーヴェンは自分が憧れたナポレオンの俗物性への絶望の表現としてこの曲を遺したから、この選曲は皮肉でもある。
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組織運営の「専門家」と称する中間管理職ばかりが増大し、そうした学者ではない「専門家」がexcellence, transformation, innovationなどといった旗印を掲げて学者の団体である大学組織に対し、学問の論理を無視しつつメスを振るう事態である。
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日本学術会議は国民の税金を使って何をしているのか、予算の内訳などといった論点への悪質なすり替えが広く見受けられる。非常に憂慮すべき事態だ。真の問題は、学問の自立性を守らなければ、学問を権力に奉仕するだけの存在に貶めるということ。
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一方、人文学からの応答は、といえば、人文学の意義や価値についてどのように学生に語るべきかというレトリックの問題に終止している。皮肉なことに、そうした「説法」を聞くのはすでに人文学を学びに来ている学生であって、これから人文学を学ぶかどうか決めようとしている学生やその保護者ではない。