男は後じさりしたが、背後の藪からも唸り声がした。野犬はもはや姿隠さず、ぞろぞろと道へ現れた。 野犬の一匹が、男に飛びかかろうとした。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
私は山道まで男を追っていた。その男に吠え、今にも飛びかかりそうな影がいくつもあった。 野犬だ。何匹いるか分からない。生臭い匂いがする。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
正しい行いとは何だ? どうすれば正しい? もはや私にそれを問うことは許されない。もう一度神の前に傅きたい。私の道を問いたい。私はどこへ行けばいい? あの夜どうするべきだった? 何をすれば正しいのですか? #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
どうするというのだ。この手にあるのは杭ではない。もはや教会の人間ではない。 だがこの時、この場所で、バンパイアにまみえたのは、ただの偶然だとでも言うのか。 頭の中に声が響く。クラージィ、正しい行いをせよ。正しい行いを。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
今、私はあの日の私に立ち返っている。黒い杭のクラージィ。悪魔祓いのクラージィ。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
全身が冷水を浴びたように覚醒した。音を立てずにその男の後を追った。 男は村を出、灯りのない夜道を事もなげに歩いて行く。 あの婦女が私を探す声が遠ざかり、聞こえなくなる。呼吸を殺し、あの男の足音だけに耳を澄ませる。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:皆が家々へ戻っていく。灯りに照らされた酒場の窓に、村人の姿がオレンジ色に映っては流れていく。 隣の男も私の肩をポンと叩いて席を立った。私はぼうっと男の背を目で追った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:夜も更けた。先程の婦女が、納屋で良ければ貸すという。久々にまともに食事をして、どっと眠気が来た。何も考えられずに、私はただ礼を言った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:そして彼は私の方へ料理の皿を押しやった。私は申し訳なくて断ろうと思ったが、彼は自分はもう十分だからと言った。私は十分ではなかったから、結局食べた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:それにしても、と、隣に座っていた男が笑った。その話が本当なら、そんなこといちいちバカ正直に話すもんじゃないよ、だからそんなにボロボロになるんだよ。世渡りの下手な旅人もいたもんだね。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:村の者は、哀れみを込めて私を見、悪魔も何も、あそこはずっと誰も住んでいないから大丈夫だと言った。他の顔を見回してみても、どうやら誰も吹雪の悪魔のことを覚えていないようだった。あの男の痕跡は、雪が溶けたように消えていた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:皆が顔を見合わせ、そして私の前にもう一杯ぶどう酒が置かれた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:私は、元は教会の悪魔祓いであったが、この先に住んでいた吹雪の悪魔を討ちに行った時に、自らの使命に疑問を懐き、それを教会へ伝えたらクビになり、紆余曲折してまたあの館に戻ってみたのだがもう誰も住んでいなかったと話した。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:食べ物は美味かった。私は道も分からぬ者であるのに。 周りを囲む数人が、どうしてそんなにボロボロなのかと話しかけてきた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:目の前にぶどう酒とパンと肉の入ったスープが置かれた。危うく祈る前に手を付けるところだった。ほとほと情けなくなりながら、できる限りゆっくりと噛んで食べた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:私は椅子に座らされた。同じテーブルにいた数人の男が私を見たが、酒と祭りのおかげか、眼差しにあるのは嫌悪ではなく好奇心だった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:彼女は私を上から下まで眺めた後に、私を酒場らしき店の外に出ているテーブルへ引っ張っていった。私はされるがままになるよりなかった。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:彼女は私に、あんたは誰で、そのざまはどうしたのかと尋ねた。私は答えようとしたが、あんまり腹が減ると声が出ないというのを知った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:あの日の婦女だ、手首に傷を負った者だ。私は彼女をすぐ分かったが、彼女の方は私が誰だか全くわからなかったらしい。やつれきってぼろぼろで、一番無事なのは樫の杖という体であったから無理もない。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:村ではあちこちを明るくしていて、酒と食べ物の匂いがした。何かの祭りであるらしかった。 私が立ち尽くしていると、一人の婦女が私を見留めた。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:呆然としていると、村の方に、夜だのに灯りが見えた。風に乗って、何かうまそうな匂いがした。 私はまったく愚かな人間で、いつの間にかそっちへ歩きだしていた。教会を追われた男の導き手が空腹であるとは、誰か知れば後世の笑い話になるだろうか。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:門柱にもたれ、そのまま眠ってしまおうかと考えた。そうすれば私は何が正しきことであるかを知ることができるだろう。そんなことは許されないと思ったが、他にもう何もできないとも思った。 #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ
クラージィ:当然だ。悪魔祓いの来た場所なのだ。ここにあの子とあの男が残っているはずが無い。 どうして私はここに来たのだろう? #23巻盆用 #吸血鬼すぐ死ぬ