斎藤憲(ギリシャ数学史)(@ken_saito_greek)さんの人気ツイート(新しい順)

コペルニクスの著作は『完訳 天球回転論』(高橋憲一訳)でその全文を詳しい解説とともに日本語で読むことができます.科学史の研究者としては,いつものこととはいえ,研究成果がどうしてここまで踏みにじられなくてはならないのか,残念な思いです.
一つだけ具体的に突っ込んでおくと,膨大な観測記録や文献が重要であったと思わせる場面がマンガにありますが,コペルニクスは,惑星の軌道決定に天動説を完成したプトレマイオスの著作『アルマゲスト』の観測記録を利用しています.書庫一杯の文献や記録なんて存在しなかったし不要でした.
科学史上の研究成果が,文学作品でねじまげて利用されるのは今に始まったことではありません.10年ほど前に評判になった小説『天地明察』では,その参考文献としてあげられた著作の著者がはっきり異議を唱えています.今でも「ここが違うよ『天地明察』」で検索できます.
『チ。地球の運動について』というマンガが人気のようです.コミック売り場で平積みになっていたりします.近世の地動説をテーマにしていますが,科学史的にはありえない話ばかり.近世の政治史,宗教史からも突っ込みどころ満載ではないかと思います.
1543年刊行のコペルニクス『天球回転論』は,72年も後の1615年に「不穏当な箇所を訂正するまで閲読中止」という形でカトリック教会の禁書目録に載りました.その5年後に公表された訂正はわずか2頁.500頁超のこの大著は実質的に問題なしと判断されたわけです.
現在,まだ完結していない(申し訳ない)エウクレイデス全集の仕事を始めたとき,もう15年ほど前ですが「22世紀の日本人のために」と半ば冗談で言ったことを思い出します.アシモフのファウンデーションが念頭にありました.それは冗談では済まないようです.
仕方がないので,口に糊するため勤務を続けました.2年半前に早期退職の対象年齢となり,待ってましたとばかりに退職しました.これ以上大学,とりわけ私の居た大学に籍を置くことは,それだけで,私の意図と違うことを是認し,それに加担することではないかという危惧がありました.
次に2012年に,設置者(大阪府)の圧力で私の所属学部が学生募集を停止し,消滅が決定したとき,本気で辞めたいと思いました.これ以降しばらく,科学史の公募に場所や職階を選ばず応募しました.
しかし,超マイナー分野の50代の教授なんてどこも採用してくれません.世界のギリシャ数学史研究をリードしてきた事実(とあえて言います)は,今の人事ではむしろ邪魔.それにどの公募の人事委員会にも業績を理解できる人はいなかったでしょう.マイナーな分野とはそういうものです.
私が大学教員であった1990年代初頭からの30年近くの間に,大学は変わりました.自治は次々と失われ,研究教育環境は確実に悪化しました.いま,私が22歳なら,日本の大学院には行かない.私が享受できた環境を次の世代に残せなかったことは本当に申し訳ない.
2005年に私が所属していた大学が法人化されたとき,私が知っていた「大学」,そこに所属して研究したいと思っていた「大学」は消滅したのだ,存在するのは大学を僭称する別の機関だと感じました.他に収入や蓄えがあったら,そのとき辞職していたと思います.
美濃部達吉が貴族院議員を辞任させられた,1935年の事件以来の学術への弾圧です.そのくらい深刻に受け止めています.#日本学術会議への人事介入に抗議する
イタリアのレプブリカ紙が,コロナウイルス感染拡大の中での医師の声を紹介しています.要約すると「何年も予算や人員を削って,大学をむちゃくちゃにしてきたあげくに,今になって医者を英雄扱いするんじゃない」という強い抗議です. repubblica.it/le-storie/2020…