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図書館で見つけた本は続きがいつもない。調べると、作者が亡くなって完結巻だけ出なかったらしい。結局、続きは自分で書いてしまった。そのことを話すと、司書さんは大量のファイルを持ってきてくれた。同じことを考える人は多いらしい。だから彼が残したたった一つの名作は、結末だけが100個ある。
2
新しくできたパン屋は全てのパンに顔を描いている。クリームパンは明るい笑顔で、メロンパンはまつ毛が長い。アンパンは気難しい。すると一つだけ顔のないものを見つけた。アップルパイだった。理由を聞くと、「…?いや、パンじゃないので…笑」当然のように答えられた。「パイに人格はないですよ」
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アパートの水が変だと思っていたら、給水タンクから腐乱した人魚が発見された。説明会での話では、人魚は1ヶ月前からタンクにあったらしい。私達はその水を飲んでいたのだ。「人魚の肉って…」誰かがぽつりと呟き、誰も何も言わずに互いを伺う。冷たい会議室で、私達は不死を試せずにいる。
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#140字小説
「給水タンクの人魚」
5
新しいイヤホンを接続しようとしたが心当たりがない機器に繋がり、何故か啜り泣きが再生される。とにかく夕飯にしようと秋刀魚をグリルから出したところ音は鮮明になり、ついに「おいしく食べてね」と呟き止んだ。とは言えあまりに不気味なので秋刀魚もイヤホンも捨て、物言わぬラーメンを肅々と啜る。
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生き物係はウサギに餌をやり、そして側溝の鮫には近付いてはいけなかった。皆はおもしろ校則と笑い飛ばしていたが、私は側溝の蓋の下、何かいるのを見た事がある。だからあの子に囁いたのだ。「側溝に猫がいるよ」と。行方不明のポスターは10年経った今もあり、薄暗い実家には道の真ん中を通って帰る。
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ある廃墟の窓ガラスに時々映る巨大な目が話題になり取材行ったが、今から取り壊すと作業員に追い返された。仕方なく商店街の老人にその話をすると、見る見るうちに青ざめていく。「あれは窓ではなく檻だったのに」そう言って耳を塞ぎ座り込む老人の横で、まだいつも通りの遠く青い秋空を茫然と眺める。
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友人は亡き恋人との婚約指輪を無くしたが、なぜか鎌や鋏を持って指輪を探し回っている。友人宅で探すのを手伝っていると、ベッドの下に美しい左手が這っていた。薬指に指輪が光っている。驚いていると友人が床に鎌を突き立てた。手は軽々と避け、また暗闇に戻っていく。友人の舌打ちはいつになく鋭い。
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妹の肌はヤモリそっくりにひんやりして苦手だった。母に聞いても困ったように笑うだけなのがますます不気味で、近寄ることも避けていた。ある日、その妹が消えた。「あなたはずっと一人っ子でしょ」そう言い笑う母は大皿に沢山の切身を並べている。鮭だと言うが、やはりどう考えてもヤモリに似ていた。
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音楽室にはなぜか真っ赤なヘルメットが一つ飾られている。「いざというときに使うの」先生が言うが、よく分からない。お喋りばかりで誰も歌わない伴奏が無意味に響き渡る中ふと、「10」綺麗な声がした。「9」、「8」、「7」、皆が騒めく中、先生はにっこりとヘルメットを被る。「こういう時使うのよ」
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バイト先で時々、換気扇の向こうに男が見える。羽の間から見開いた目が垣間見え、次の羽が通り過ぎるともういない。店長に伝えると彼女は泣き崩れた。亡くなった夫が今も見守ってくれているのだ、と言う。昔の写真を見せてくれた。店長の横で笑う夫は優しそうで、細い目が仏の様だ。
この人ではない。
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弟はいなくなる前「お風呂の中に鯨がいる」と言った。大人たちは風呂場を探したが何もなく、弟は行方不明のままだ。俺は裏庭の雑木林にもバスタブがある事を大人に言わなかった。弟は何を見て鯨だと思ったのだろう。落ち葉の下この澱んだ水底を覗いた時にあるのは、大きな目か崩れた子供のどちらかだ。
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年の離れた姉は神経質だった。特に窓を気にして閉めて回る。私の上にいたという兄弟が関係あるらしい。「お姉ちゃんが窓を閉め忘れて誘拐されちゃったの」母はそう言う。ならなぜ赤ん坊の泣き声に怯えるのか、窓の真下から白骨化した乳児が見つかった日以降姉は行方不明なのでもう聞くことはできない。
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恋人の家に開かずの部屋がある。何故なのか聞いたが、笑って「初めて見た時の顔が楽しみだ」と言う。誕生日、部屋の中を見せると言うので家に行くと包丁を持つ彼の前に首が転がる。私の浮気相手だ。慌てて逃げた先は開かずの部屋で、幸運にもノブが回った。ドアの向こう、ただ灰色の壁が目の前にある。