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家族旅行はいい思い出が無い。旅行に連れて行ってもらっておいて図々しいと思われるかも知れないけど、本当に苦痛だった。父は時間にうるさく、移動の際ずっと切羽詰まっていて、私達を罵倒し、街を観光する際は見失いそうな程私達から離れた距離で一人どんどん先に早歩きで進み、追いつくと、「遅い」
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親戚の伯母さんは帰国する度、とても甘やかしてくれて、ある時ディズニーランドに連れて行ってくれた。帰る時、思い出にショップで何か一つ選んでもいいと言われて夢の様な気分で並んでいる宝の山を見ていた。全部自分には勿体無い物ばかり。暫くすると、好きなキャラのぬいぐるみに目がいった。
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両親は親になるべき人間ではなかった。私は育つべきではなかった。自然の摂理に逆らって生きながらえてしまったような気持ちだ。まるで豊かな明るい庭の中に紛れ込んだ雑草の様な、申し訳ない気持ちだ。とても生き辛い。
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「次は置いて帰るからな。もう知らね。勝手にすれば」と吐き捨てる。母は折角来たんだからと色んなお店の前で立ち止まったりしている。両者の間で消耗する。美術館や観光地にたどり着いても同じ。母はガイドブックに顔を埋め、ブツブツ独り言、父は遠い。説明を求めても、「見て感じるのが一番」と
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放置され、ただただ退屈だった。幼稚園前の妹はよく行方不明になった。信じられない程遠い所まで歩いて行って、両親は気付くと血眼になって探した。一日それで潰れる事なんてザラにあった。全部妹が変わり者だから、幼いから、で片付けられたが、頻繁にあったので今思うと相当危険だった。
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とてつもなく運が良かったから今こうして生きていられる事に過去を振り返る度、気付かされる。でもそれで得した気になれず、色んな力が私の失敗を望んで働いているのにも関わらず、生きながらえてしまった事を恥じる気持ちの方が強い。両親の罪が明るみに出るのを意に反して防いでいる自分も嫌いだ。
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「完璧に産んでやったのに。何でこんな子に育っちゃったかなぁ?私の努力も水の泡。なーんにもいい事無い。消えちゃいたい」
「産まれた時は天使だったのに。あーあ、だーまさーれたー」
初めて生理が来た後辺りから成人後も言われ続けた。母の決め台詞の一つ。#それ娘に言う言葉じゃないだろ選手権
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伯母さんがその事に気付いて、母に猛抗議した。あなたはいつもそうやって…!とビックリした様な、呆れた様な言い方だった。私は二人が喧嘩をするのが嫌で、思いつく限り伯母さんをなだめようとしたら、その意図を見抜かれて、私は何の心配もせず、好きな物を選んでいいとキッパリ言ってくれた。
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凄く心苦しかった。本当に悪かったな。そのぬいぐるみだけは何故か捨てられず、今でも持っている。見る度複雑な気持ちになる。とても楽しくて感謝が詰まっている反面、好きでは無いキャラがその素敵な気持ちを嘘で終わらせたお前は罰当たりだと語っているみたいな気がする。その子と遊んだ記憶は無い。
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その様子に気付いたのか母が近付いて来て、それは高いから良しなさい、入場料も伯母さんが受け持ってくれたんだから、と釘を刺された。私はまだ値段が分からず、これかと思う物を片っ端から母に鑑定してもらった。欲しい物が実用性があって安い物に変わっていった。ボールペンに決めようかとしていた時
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別にそのぬいぐるみが嫌いという意味ではなく、私にとっては高価すぎる気がして、お雛様の様に飾っていた。ディズニーランドは本当に楽しかった。今でも子供の時の楽しい思い出と言われてパッと思い付くのは、伯母さんに経験させてもらったものがとても多い。感謝している。
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母は私を睨んでいる。どうやら主人公レベルのぬいぐるみは高いと理解した私は脇役の可愛らしいぬいぐるみを指差した。伯母さんは本当にそれでいいのか何度も聞いてくれた。母は目を合わさない。きっと妥当なチョイスだったんだと理解した私はもっともらしい理由を沢山述べた。伯母さんに嘘を言うのが