「チッ、また親子二人でラーメン一杯かよ」無口な店主の無愛想な視線はいつもそう言っていた。思えば月に一度のそのラーメン屋が母の唯一の贅沢だったが、私はその時間が苦痛だった。だから東京へ出て初めて他の店のラーメンを食べた時、涙が出た。ああそうか。本当はこんなに少なかったのか一人前は。
「もしもし母さん? 俺だよ俺!」典型的な偽電話詐欺だ。その癖ちゃんと息子の名を名乗り、声もあの子そっくり。だからこそ腹が立った。息子はもうこの世にいないのに酷い真似をする。「実は大至急お金が必要でさ」ほら来たと身構えると、電話の声はこう続けた。「頼めないかなあ、ほんの六文ばかり」