御二兎レシロ/140字小説(@hakushi_tsutan)さんの人気ツイート(新しい順)

視力検査で使われるアルファベットの『C』に似た記号。これを『ランドルト環』という。 そしてそのランドルト環が書かれたプレートを看護師さんが持ち、それを縦にしたり横にしたりしながら、近付いたり離れたりしてくれる。 これがつまり、視力が0.1に満たぬ者だけが知る、屈辱と絶望の時間である。
私は盲目だったが、私の夫はきっとイケメンだと思っていた。 そこへ心ない知人が「アンタの旦那、火傷の痕で顔中ただれた化け物よ」と笑った。 堪らず光を取り戻す手術を受け、そして夫を見てみれば全く知人の話通り。 私は泣いた。 「やっぱり貴方だったのね。昔、火事から私を助け出してくれたのは」
「ポケモンやってる女は嫌だわ」恋人のその一言に私は幻滅した。自分だってポケモンオタクの癖に、女にはやるなとは何様だ。しかし彼はふと遠くを見た。そして「実は妹も好きだったんだ、ポケモン」と声を震わせ涙した。「小学生の頃、色違いイーブイが出るまで何日も何日も孵化厳選やらされてさ……」
#140字小説 【タチの悪い合言葉】
「攻めの逆は?」と問われたら「守り」ではなく「受け」と返さねばならない。それが潜入先の組織の、スパイをあぶり出す為の合言葉であった。まあ予め正答を掴んでいる以上どうという事はない。だがある時、組織の同僚が俺に聞いた。「ネコの逆は?」俺が「犬」と答えると、彼は何やらにっこり笑った。
「すみません、タイムマシンの設定ミスでした」と助手は青い顔をした。まあそれはそうだろう。西暦2023年から我々の時代の3023年に戻るはずが今、恐竜の群れに囲まれているのだから。「で、ここはジュラ紀かね? それとも白亜紀か?」私が呆れて訊ねると、声を震わせ助手は答えた。「西暦4023年です」
「やはり自分で実際に体験しなければリアリティは出せません」作家の彼が得意顔で言うと、会場はどっと笑いに包まれた。と言うのも、彼の代表作は『食人鬼の献立』というサイコホラー小説であるからだ。そして会場で俺一人だけガクブル震えているのは、俺には嘘吐きが赤く見える特殊能力があるからだ。
「“愚か者には見えぬ服”を仕立てるゆえ寄付を募れ」国の財政が傾く中でのその言葉に、大臣は泣きたくなった。しかし王命は絶対である。仕方なくその通りを実行すると、国内外の富裕層から多大な寄付が集まった。「堂々と顔を上げよ大臣」素っ裸で街を練り歩きながら、絶世の美女たる女王は凛と笑った。
近所の和尚さんが中学二年生のご子息に手を焼いているという。 「漫画か何かの影響なんでしょうが、近頃は自分の事を『小生』だの『それがし』だのと言ってみたりで」 「あはは、可愛いもんじゃないですか」 全く情けない話です、と溜め息する和尚さん。 「寺の息子の癖に一人称にセッソウがないとは」
鏡に向かい「お前は誰だ」と言い続けると発狂する、とは有名な都市伝説だ。しかし、逆に鏡から「お前は誰だ」と言われ続けたらどうなるのだろう。気になったので頼んでみると、鏡も「面白そう!」とノリノリ。それから彼に毎日「お前は誰だ」と言って貰っているが、今のところ特に気が狂う気配はない。
「チッ、また親子二人でラーメン一杯かよ」無口な店主の無愛想な視線はいつもそう言っていた。思えば月に一度のそのラーメン屋が母の唯一の贅沢だったが、私はその時間が苦痛だった。だから東京へ出て初めて他の店のラーメンを食べた時、涙が出た。ああそうか。本当はこんなに少なかったのか一人前は。
「これから皆さんにはゲームをして貰います」 拉致した少年達に大富豪は笑った。 後に逮捕された彼は動機をこう語る。 「昔の自分を救いたかった」 一月その館に軟禁された少年達――あらゆるゲーム機とソフト、そして課金し放題のスマホを与えられた彼らの共通点は、ゲーム禁止の家庭で育った事だった。
「ほらオレ偽善者だから」と友人はヘラヘラ電車で老婦に席を譲った。 「ほらオレ偽善者だから」と友人はヘラヘラ募金箱に紙幣を入れた。 「ほらオレ偽善者だから」と友人はヘラヘラ戦地へボランティアに行き、帰らなかった。 ……神様をぶん殴ってやろうと思ったが、僕はやっぱり思うだけなのだろう。
「本当に便器から腕が出たんですね?」我が家のトイレを見るや、その霊能者は顔を青くした。業界でも指折りと名高い男だ。「ひとまず御札を作りましょう」そう走らせ始めた筆も震えている。その時点でただ事ではないと分かったが、札の文字を見ていよいよゾッとした。『霊はいない今すぐ警察に連絡を』
素敵な恋人が出来た。試しにそう書いた。 翌日、意中の彼に告白された。 大金持ちになった。次はそう書いた。 翌月、宝くじが当たった。 書いた事が現実になる一言日記帳は本物だった。 だからもう、我欲の為に使うのはやめた。 世界が平和になった。最後にそう書いた。 ……翌年、人類は滅亡した。
私は祖父が大嫌いだ。物心がついた頃には既に、我が家は二世帯住宅だった。 祖父はむかし犬を飼っていたらしいのだが、私がペットを欲しがっても決して良い顔をしなかった。「動物は嫌いだ」とすら言った。何故と聞くとボソッと一言、「死ぬから嫌いだ」。 ……だから、私も祖父が大嫌いだ。#140字小説
幼い頃、神社でケガをした子狐に出会した事があった。思い返してみれば、食卓に必ず一品は油揚げ料理があった。結婚式の日には天気雨が降った。婚約指輪を用意しようとした私に、彼女は「もう貰ったわ」と悪戯っぽく笑った。……遺品整理で見付けたその小箱には、古びた絆創膏が大切に保管されていた。
「チッ、また親子二人でラーメン一杯かよ」無口な店主の無愛想な視線はいつもそう言っていた。思えば月に一度のそのラーメン屋が母の唯一の贅沢だったが、私はその時間が苦痛だった。だから東京へ出て初めて別の店のラーメンを食べた時、涙が出た。ああそうか。本当はこんなに少なかったのか一人前は。
「肝試しに行こう」そう友人が俺を連れ出したのは、都内某所のある居酒屋だった。なるほど話の通り、見るからに“出そう”な雰囲気である。まるで昭和がそのまま朽ち果てるを待つようなボロい店だ。そして来店から数分後、店主が半ば叩き付けるように俺達の前に皿を置いた。「へいお待ち、豚レバ刺し!」
友人がヤバい宗教にハマってしまった。何度も考え直すよう説得を試みたが、その度口論になる始末。面と向かって「間違ってるのはお前の方だ!」なんて言われれば腹も立つが、しかし大切な友人だ。何とか目を覚まさせてやらねば。何せあの宗教、平気で“人間は猿から進化した”とかほざくヤバさだからな。